大判例

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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)467号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対して昭和五六年八月三一日になした重懲戒七年の処分は無効であることを確認する。

3  控訴人が被控訴人の宗務役員たる地位にあることを確認する。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  主張及び証拠関係

次のように訂正、付加するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決五枚目表六行目の「この和解において、」を「その際、」に、七行目の「報復的行為」を「報復的懲戒」に、同六枚目表三行目の「認定」から同行末尾までを「なした本件懲戒処分には事実誤認がある。」に、裏七行目の「仏相、」を「仏祖の」に、同七枚目表九行目の「未処分」を「不処分」に、同八枚目表七行目の「曽代」を「曽我」に、同一〇枚目裏五行目の「友教団活動」を「反教団活動」に、同一一枚目表八、九行目の「懲戒処分事実を誤認しており、」を「事実誤認があり、」にそれぞれ改める。

二  同一三枚目表五行目の「これをもって」を「右受諾を」に改め、七行目の「入院し」の次に「かつ京都地方裁判所から職務執行禁止の仮処分命令をうけ」を付加し、裏八行目の「副輪」を「輪番」に、同一四枚目裏九行目の「1」を「第一号として」に、一〇行目の「2」を「第二号として」にそれぞれ改め、同一五枚目表七行目、同一六枚目表二行目の「静養」の次に「を要する」を付加し、裏五行目の「同月」を「同年一〇月」に訂正し、同一七枚目裏六行目の「企策した」の次に「と称する」を付加し、同一九枚目裏五行目の「規定の」から六行目の「であって、」までを「規程の定めた他の懲戒処分である降級、減俸、譴責処分を選択すべきか否かについても考慮することなく、」に、同二〇枚目表一行目の「右各事件の」を「原、当審の訴訟」にそれぞれ改める。

三  控訴人の主張

1  昭和五五年一一月に大谷光暢と内局側との間で成立した和解に関連して作成された甲第四号証(甲事件の記録中のもの)は、将来なす懲戒処分についてはふれていないが、処分の減免をするという文言の中に、まだ処分されていない者を将来において処分しないという趣旨を含むものである。そして、同年一二月一八日頃被控訴人から大谷光暢管長に対し、審問院の監事、審事の任命が上申された際、同管長は、任命の条件として、「将来における報復的懲戒はどのような事情があろうとも一切行わない」ことについて宗務総長、宗議会議長、審問院院長が同意するよう申し入れ、これの確認を弁護士内藤賴博を通じて行った。

2  宗派の最高責任者は、宗派から委任されて内局を構成する受任者との間の信頼関係が破綻したときは、委任を解除し、その後任として事務取扱を任命することができる。

したがって、大谷光暢管長のなした宗務総長等の解任及び事務取扱の任命は有効である。

四  被控訴人の主張

1  昭和五五年一一月に成立した和解に際し、甲事件の甲第四号証の覚書が大谷光暢宛差入れられたことは、事実である。

しかし、右覚書は、その文言からも明らかなように、真言大谷派の紛争に関連してなされた右和解以前の懲戒処分について和解の成立した事情を斟酌して善処しようとするもので、右和解以後の行為についての取決めではなく、まして将来における懲戒は一切行わない旨を約束したものではない。

2  控訴人が、大谷光暢管長から参務事務取扱への就任を依頼された当時における宗議会の情勢、宗務役員の意識等からすると、到底同管長の企てが成功する筈がなく、又控訴人らが参務事務取扱に就任して、真宗大谷派の運営が行えるような情況にもなかったから、控訴人は、同管長の依頼は同派の秩序を混乱させるだけのものであることを容易に認識できた筈である。

したがって、控訴人が、免役処分及び懲戒処分に付せられたのは、当然である。

理由

当裁判所の認定判断は、次のように付加、訂正するほか原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二二枚目表末行の「また」の次に「原、当審における」を付加し、同二四枚目表九行目の「その趣旨はあいまいであって、」を削除し、裏三行目の「には一切触れられ」を「は全く含まれ」に改め、二五枚目表三行目末尾に続けて次のように付加する。

「結局、右甲第四号証は、その文書の趣旨どおり、昭和五五年一一月五日当時行われていた懲戒処分及び離脱寺院の復帰に関して事情を斟酌して善処することを約諾したものであると解することができ、まだ処分されていない者を将来において処分しないという趣旨まで含むものであると解することができない。また、成立に争いのない甲第一〇号証(内藤賴博の証言調書)によれば、前記即決和解成立当時における大谷光暢管長側と内局側との間の話合において、同管長側から、既に行われた懲戒処分の減免のほかに将来報復的懲戒はしないようにとの要望をしたのに対し、五〓宗務総長(当時)がそのようなことはしないと述べたことが認められる。五〓総長の右の言は、報復的懲戒はしないというに止まるから将来において一切懲戒処分はしない旨の合意が成立したことの証左になるものではなく、控訴人に対して行われた本件懲戒処分は正当な根拠に基づくもので決して報復的な懲戒であるとは認められないから、右甲第一〇号証は何らさきの認定及び判断の妨げとなるものではない。」

二  同二四枚目裏末行の「原告本人」の前に「前掲」を、同二五枚目表末行の「至る」の次に「被控訴人の懲戒機関である審問院の審理の」をそれぞれ付加し、裏三行目の「監事側」から四行目の「いた」までを「審問院から控訴人に対して審問会への招喚等の手続が行われたが、控訴人は病気を理由に出頭しなかった」に改め、同二六枚目表六行目の「原告」の前の「前掲」を付加し、裏末行の「当時」を「昭和五一年四月二四日免役となるまで」に改め、同二七枚目表四行目の「された」の次に「各部屋の」を、裏三行目の「原告本人」の前の「前掲」を各付加する。

三  同二八枚目裏一〇行目の「ところ、」の次に「成立に争いのない甲第二号証(甲事件の記録中のもの)及び前掲」を付加し、末行の「所長」を「教務所長や寺院輪番」に改め、同二九枚目表一〇行目の「及び」の次に「前掲」を、同三〇枚目表六行目と七行目の間に次を各付加する。

「(二) 控訴人は、宗派の最高責任者は、内局を構成する宗務総長等を解任し、後任として事務取扱を任命することができるから、大谷光暢管長が宗務総長や参務を解任し、それぞれの事務取扱を任命した行為は有効である旨主張する。

しかし、成立に争いのない乙第二七号証(甲事件記録中のもの)によれば、旧宗憲は、管長は、真宗大谷派を主管し代表する(一五条二項)と定めるとともに、宗務総長及び参務を任命するとしているけれども、宗務総長の任命には宗議会の推挙が、参務の任命には宗務総長の選定が必ず必要なわけであって(一八条、四三条二項)、無制限な任命権を有するのではない。また、旧宗憲一九条一項は、管長は、内局の補佐と同意によって一定の宗務を行うと想定していて、その宗務の中には宗憲又は条例の定める宗務役員の任免及び進退を行うことが含まれており(同項九号)、成立に争いのない乙第三〇号証によれば、これを受けた条例である宗務職制二二条及び二三条は、管長は、宗務総長、参務を含む親授以上の宗務役員の任免を行うとしているので、管長は宗務総長及び参務の任免権を有することとなるが、この宗務の執行には内局の補佐と同意等を要するのであるから、管長の権限は実質的には名目的、形式的のものであるといわざるを得ない。そればかりでなく、旧宗憲の諸規定によれば、宗務行政は内局がこれを行うと定められ(四二条)、内局は、宗務総長及び参務五名以内でこれを組織し(四三条)、宗議会に対し連帯して責任を負い(四四条)、宗議会で内局不信任の決議案を可決し又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に宗議会が解散されない限り、総辞職をしなければならず(四五条一項)、宗務総長の欠けたときも総辞職することが必要であり(同条二項)、前二項の場合には内局はあらたに宗務総長が任命されるまで引続いてその職務を行う(同条三項)としている。なお、宗務総長事務取扱や参務事務取扱なるものが宗憲等の内規に定めのある職でなく、これらの職が管長により任命された慣行も前例もないことはすでに判断したところである。これらの諸点に照らすと、宗派の宗務行政は実質的には内局の権限と責任において行われるものであるとともに、内局の存立の基礎は管長の委任にあるのでなくして宗議会の信任にあり、内局を構成する宗務総長や参務は宗議会の信任の有無に従って一体として進退を決すべき地位にある者であって、管長において独自に宗務総長や参務を解任する権限を有するものではなく、管長があえてその解任なる行為を行い宗務総長事務取扱や参務事務取扱を任命しても法律上その効力を生ずるものではないと解するのが相当である。

よって、控訴人の前記主張は採用することができない。」

よって、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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